ここだけの話。

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音楽、本、その他いろいろな記事を書いているつもり。

ゾクゾクが止まらない怪異小説。森見登美彦「夜行」感想とあらすじ

「夜行」あらすじ

僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。

旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」

10年前、英会話スクールの仲間と行った祭りで行方不明になった女性。そして10年後、再び仲間が集まることに。

宿で思い出話を語る中、その10年の間に、それぞれがある一人の銅版画家にまつわる不思議な旅行を体験していたことが分かり... ...という話です。

 

「銅版画家」「姿を消した女性」という軸はありますが、それぞれの思い出話が独立した短編集になっています。

計5話ありますが、個人的には「奥飛騨」「津軽」がお気に入り。

 

明確でわかりやすい本ではない

読了後は「・・・? (なにこれこわい) 」です。

ミステリとは違い、理屈とか推理とかそういうのが無いので。オチがすっきりとしないんですよね。

「なるほど!」を楽しむような作品ではなく、ただただ仄暗い雰囲気を楽しむような作品です。

 

ひとつ例を出してみます。

第一夜「尾道」概要
(ネタバレ嫌な人のために白文字で表示しています。反転させて見てください。)

 

ある日中井が家に帰ると、妻が居なくなっていた。電話をかけると、「尾道にいる」と話す。

妻を迎えに尾道まで行く中井。妻が滞在していると話す高台にある家に辿り着く。そこで妻にそっくりの女性と出会う(妻ではない)。

その女性と別れたあと、女性の夫であるホテルマンに出会う。彼曰く「妻は家出している。あの家には誰もいないはずだ」。

 

ホテルに戻った中井が昼寝していると、妻そっくりの女性から「夫から助けてほしい」という電話が。

待ち合わせ場所に駆け付けると、そこに女性はおらず、代わりにホテルマンがやってくる。

ホテルマンの話では、家を飛び出したホテルマンの妻は夜行列車に飛び込み自殺、しかし電車が通り過ぎた後には何の痕跡もない。けっきょくどこへ行ってしまったのかわからない。とのこと。

 

中井はまだそれを信じきれず、再び女性と出会った高台の家へ向かう。

ホテルマンにそれを止められ、揉み合いの末にホテルマンを瓦で殴打、ホテルマンを血まみれに。

家を目指して歩く中井、坂の上に妻を見つける。中井は妻の手を取り、高台の家に帰っていった。

・・・? (なにこれこわい) 

謎が謎のまま。異様な不気味さがあります。

 

ほんとにこんな感じの話ばかり。「!! この怪奇現象は...あの女の霊の仕業だったのか!」みたいなのは期待しないでください。

それとわかりやすい幽霊らしき幽霊も、作品中には一切出てきません。幽霊というよりは幻想。夢現になる物語です。

 

ホラー、怪異小説として読むなら◎

さきほど「ミステリとは違い....」と言いましたが、ミステリ的なオチを期待しているのであれば、クソほどおもしろくないです。

当たり前といえば当たり前ですね。ミステリじゃないからね。

 

並みの人間には理解できないような唐突な展開に、背筋がゾクッとする、わけがわからない怖さと不気味さ。

神隠し、失踪、狂言パラレルワールド、ありとあらゆる要素がこの本に詰め込まれています。

ホラー小説、怪異小説好きにおすすめの一冊です。

 

まとめ

異色で不気味。だがそれがいい

ミステリや娯楽小説としては読めないですが、ホラー小説としては凄くおもしろかった。

 

夜は短し~みたいなコミカルな森見登美彦も好きですけど、この不気味な森見もまたいいですね。

「夜行」が気に入った人は、同じく森見登美彦の「きつねのはなし」もおすすめ。これまた不気味な話です。

 

「不気味な森見」って韻踏んでてすごいリズミカル。センス良すぎ。